EXHIBITION

展示概要:

令和元年度 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 4 年生 卒業制作学内展

会期 : 2020年1月11日(土)、1月12日(日)10:00-17:00

会場 : 東京芸術大学上野校地美術学部絵画棟5.6.7階アトリエほか


「逸脱を語る」は大きく分けて二つのブースに分かれた展示です。

1:MOVIE / PICTURES / STATUE

「私の背中、実は曲がっているんだけど、あなたには『大したことじゃないけどちょっとおかしいと思っている部分』はありますか」という問いに対し、「おかしいと思っている部分」にまつわる個人的な思いやエピソードが興味深かったり、「おかしい」を生んだ「基準(=おかしくない、普通)」を象徴するアイテムが聞き出せた例を、自分自身の話を含めて五つ、ドキュメンタリー調の映像にまとめて発表しました。

また、プロジェクトの起点となった自分自身の背中の像も展示しました。

大越早苗さんの場合

不完全な小指と運命の赤い糸

大越さんの左手の小指は、曲がっていて爪がありません。

これは母親の家系からの遺伝で、大きくなったら爪も生えてくると言われていたものの、

結局生えてこなかったので、父方の親戚は不満そうにしていたと言います。

大越さんは小さい頃からロマンチストだったそうで、運命の赤い糸が結ばれる指だから、

不完全な小指では支障があるのではないかと心配していたと話してくれました。

彼女は、中学生の時に、その小指可愛いねと言ってくれた子がいて、

とても驚き、嬉しかったことを覚えています。

今ではこの指が当たり前すぎて何も思っていないそうです。

当時の赤い糸のイメージは、少し毛羽立つようなチープなものだったらしいので、

そのイメージに近い赤い毛糸を探し撮影しました。

新井ちひろさんの場合
ねじれている膝下とトウシューズと登山靴

新井さんは、右足の膝と爪先が同じ方向を向かないそうです。

原因はハッキリとはわからないものの、体の歪みがそれぞれに連動していると感じているそうです。

新井さんの場合、その歪みの把握がすごいのです。

右の股関節の周辺がよくない。

左足が利き足なので、股関節を外向きにした時、右膝が引っ張られて内向きに入ってしまう。

バレエで、股関節を外向きにするのが不十分な中、膝から下だけを無理して回してしまう。

外反母趾、左の腰の筋肉が張って盛り上がっている、骨盤が傾いている、

足の重心が足の小指にばかり乗っている。

などを挙げてくれました。

その一方で「痛めたら嫌だな」と思う程度で、

特に見た目は気にしていないというのも不思議で面白いと思います。

5歳から高校生までずっとやっていたバレエのトウシューズと、

足にかかる重心を指摘された登山靴のエピソードから、この二つの靴を写真に収めました。

赤澤玉奈さんの場合
女の子らしくない手とエンジェルブルーの指輪

「手が、自分は、女性的なところとは違うなと思っている。
骨太めでゴツゴツしている中性的な手だと思っている。」赤澤玉奈(あかざわたまな)さんはこう話します。

赤澤さんが生まれた時に、病院でお母さんが彼女の手を見て
「まじでびっくりした」と言ったエピソードを語ってくれました。

お母さんは結婚しているし、女性的な観点を持っているから、
3歳とか5歳の時にすでに「この子は結婚指輪をはめられるのかな」と心配していたと言います。

さらに小中学生になり、お洒落に気を使い出したタイミングで、みんなが手の細さを気にし始めました。
雑誌には「指を細くするためには」といったコーナーがありました。
激安アクセサリーの店のサン宝石の、一個50円の安い指輪を、
赤澤さんは、はめたくてもはめられなかったそうです。

一番印象的なのは、女の子の憧れの象徴的なブランドの指輪が、指に入らなかった経験だといいます。
小学生の時に、いとことデパートに行きました。当時、エンジェルブルーというブランドが流行っていて、
その指輪をはめようとしたら、第二関節でつっかえて入らなかったのだそうです。
それを受けて赤澤さんは「あ、自分の指はちょっと太いんだな、人と違うんだな」と痛感し、
悲しかったと語ります。

こうしたことの積み重ねで自分の普通より大きな手がコンプレックスになった赤澤さんですが、
転機は中学生の時。吹奏楽部の女の子が、「この手が好き」と言って、撫でてくれました。
また大学に入った時には「この手便利だな、機能的な形で嫌いじゃないな」と思えるようになったそうです。

中学生の時にずっとやっていたマッサージの癖は今も残っています。
お母さんは、今でも居酒屋に行くと「あんたの手は大きかった」と話すそうです。
赤澤さんとは、当時はめたくても入らなかった指輪を一緒に作り直しました。
新しく作った指輪はきちんと指に入りました。
惑星っぽく仕上がったと赤澤さん。本当に可愛くて本人に似合っていると思います。

梶原勇希さんの場合
尋常性白斑(じんじょうせいはくはん)の白髪とマスカラ

ことの発端は、3歳の時。幼稚園に行きたくなさすぎた上に、
唯一の希望だった好きな先生が担任から外れてしまったストレスで、円形脱毛症になったと言います。
その後、しばらくして髪の毛は生えてきたものの、それが白髪だったそうです。
そのまま今に至るまで、頭の一部が白髪。
尋常性白斑(じんじょうせいはくはん)という病気だと後から知ることになります。
レーザー治療などもしたらしいのですが、すぐに辞めてそのまま様子を見ていたと言います。

しかし小学生になるといじめに合う心配をして、
お母さんがマスカラのようなもので白髪を毎日染めていた記憶があるそうです。
しかし自分では白髪の位置は見えないし、何を使って染めていたかあまりよく覚えていないそう。
毎日染め直さなければいけないもので、つくしのようなものが先端についているといいます。
小学4年生ごろ、ふと、毎朝面倒くさいし、染めないで登校してみようかなと思い立ちました。
年頃なので、友達に色々言われるかなと、おっかなびっくりしながら学校に行ってみたそう。
しかし何も起こらず、むしろ誰かが「カッコイイね」と言ってくれたと言います。
これを聞いたお母さんも安心したらしく、その後は染めずに無事小学校を卒業しました。

中学校では、髪を染めてはいけない校則のため、先生に一度だけ指摘されました。
これを受けて、梶原さんはあえて染めていると思われるほど、
ファッション的にも違和感がないものだと認識して、その後は完全に何も気にしなくなったそうです。
むしろ持ちネタのようになっていたと明るく語ります。
今では特徴として、初対面の人に自己紹介で自分から話しているそうです。
多少パーソナルな情報だから、聞いた相手もガードが薄くなって便利だと感じていて、
また、能力に関しても、普通とは違うことにこそ価値があると、早い段階で気づかせてくれたから、
今の自分があるとも語ります。

後日、当時白髪を染めるのに使っていたマスカラを見つけて持ってきてくれました。
それは髪の毛用ではなく、なんとアイブローマスカラ。
眉毛用のマスカラでした。意外なものでカモフラージュしていたことがわかりました。

また、「なんで染めていたの?」聞くとお母さんからは「あんたが気にしてたから染めてたんでしょう!」と記憶と違うことが言われ「いや、気にしてなかったよ!」と言い合いになるなどしたそうです。お互いにお互いが気にしていると思っていたことがわかって、面白い時間だったと話してくれました。

高野実紅の場合
脊柱側湾症で曲がった背中とコルセット

私の脊柱側湾症は、まず中学校のモアレ検査で引っかかった後、
脊柱側湾症の治療で評判の先生がいる病院で、すぐにコルセットを作ることになりました。
入浴の時以外は、学校でもずっとつけていなければならないということで、
コルセットを作るのも装着するのも嫌だったし、そもそも背骨が曲がっているという事実に、
「私は普通ではなくなってしまったんだな」と打ちひしがれてしまったことを覚えています。

結局、作ったコルセットは2、3度くらいでつけるのをやめてしまいました。
当時の感覚からしたら大金を注ぎ込んで作ったコルセットを無駄にしてしまったと罪悪感がありました。

成長期が終わると同時に、背骨の湾曲も止まったようです。
自分では背中は見られないし、背骨の曲がっている感覚というものも感じられないので、
普段は気にしていませんが、調子が悪いときに痛むし、筋トレや日常生活で屈んだときに人から指摘されて
思い出し、中学生当時のやるせない気持ちも一緒に思い出していました。

特に、母に曲がっている部分を触られると、一番落ち込みました。

今回、自分の背中を直視してみようと思いたち、まず実家に連絡して
当時のコルセットが残っていないか聞いてみました。
もうずいぶん前に処分してしまったそうです。

そこで、病院でコルセットを作るのと同じやり方で、石膏と包帯を使って自分の背中の型をとってみました。

出来上がった自分の背中を眺めていると、確かに自然と手が伸びて触ったりさすったりしたくなりました。
それくらいハッキリと筋肉が不自然に盛り上がってしまっています。

「昔の自分、辛かったね、頑張ってくれてありがとう」という思いが浮かんで、
ハグをしてみたら、いろいろな嫌な気持ちに少し折り合いがついた気がしました。

これを作った後に、母に当時の話を聞きました。
学校の検査で引っかかったと記憶していたものの、
実際には、母が見た目で左右の背中の高さが違うと気がついて、病院に行くことになったそうです。

私は高かったコルセットを付けなかったこと罪悪感がある、とも話したら、

「高かったけど補助金も下りてきたし、もしコルセットを作らなかったら、
作ったらこんなにひどくならなかったのに、と言って、それはそれで後悔していたと思う。
作っておけばよかったというように。
だから失敗もありきで経験してみないと、わかんないってことはたくさんあるから、
医者には騙されたなとも思ったけど、作ってよかったと思う」と話してくれました。

当時の自分も、失敗ありきでやってみることに価値があったんだという考え方を持っていれば、
もう少し気持ちが違ったかもしれないと思いました。
でも今回、当時の気持ちに折り合いがついてよかったです。

制作協力:赤澤玉奈、新井ちひろ、海上夕葵、大越早苗、梶原勇希、古山詞穂、佐藤はなえ、諏訪部佐代子、長谷川綺(敬称略)


2:HEIGHT MEASUREMENT HERE

来場者は、自分の身長を測れます。

測定した身長を、作家がその場でカードに印刷してお渡しします。

カードの裏には、QRコードが印刷されています。
ここから「逸脱を語る」アンケートフォームにアクセスできます。

自分の身長を測ることで、鑑賞者ではなく参加者として、自分の体に意識を向けてもらうことが狙いです。

動画と合わせて、もし自分の「ここちょっとおかしい」が思い出されたら、アンケートフォームで回答をお願いします。

展示会場では、その場で記入できるアンケート用紙も用意しました。

VOICEではアンケートで集まったみんなの逸脱を公開しています。